せとまちコラムSetomachi Column

進行がん治療の進歩と保険診療の限界

点滴療法からだに優しいがん治療

2024.07.27  2024.08.08

近年がん治療は飛躍的に進歩しており、先進諸国ではがんは治療可能な疾患となりつつある。日本においては保険診療がメインで患者さんの経済的負担が軽減できる一方で、様々な制限もある。

 

分子標的薬

がん細胞と共に免疫力も低下させてしまう細胞傷害性の抗がん剤の他に、変異した遺伝子を持つがん細胞に特異的に作用する分子標的薬が昨今、次々と開発され、非小細胞肺癌(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)、血液がん(白血病、悪性リンパ腫)、乳がんなどではより確実に治療効果が期待できるようになってきた。その反面、ガイドライン上は細胞傷害性抗がん剤との併用が基本であるため、多剤併用による副作用が問題となる場合が多い。また、長期の使用による耐性の問題や転移巣では原発巣と遺伝子変異が異なり効果が期待できないこともある。

従来の臓器別の治療ではわからなかった遺伝子の変異を、がん遺伝子検査を行うことで、臓器に関係なく分子標的薬を使うことできるようになってきている。例えば、乳がんで適応となっていたハーセプチンは今ではHER2陽性の胃がんや大腸がんでも保険適応になっている。しかし、保険診療では遺伝子パネル検査(多数の遺伝子を一度に測定)は標準治療が困難な場合にしか適応がないため、一部のがん患者さんしか受けられず、できたとしてもその遺伝子異常に対する分子標的薬がなかったり、存在するものの保険適応がない場合も多い。RGCC社のCTC検査は自費診療になるが、血液検査により複数のがん遺伝子検査ができ、50種類の抗がん剤、65種類の分子標的薬、アガリクスやフコイダン、アルテスネイトなど50種類の天然成分のサプリメントの感受性の評価も可能である。

 

免疫チェックポイント阻害剤

10年程前から免疫チェックポイント阻害剤が保険認可され、さらにがん治療の幅が広がっている。もともとがん細胞は自己の細胞の一部が遺伝子変異をおこした細胞であり、細菌などの明らかな非自己(異物)ではないため身体が外敵と判断できず免疫が働きにくい側面がある。一般的に遺伝子変異が多いがんは非自己と認識しやすく、免疫チェックポイント阻害剤が効きやすい(免疫原性が高い)。免疫原性が高いがん(非小細胞肺がん、悪性黒色腫、腎細胞がん、頭頸部がん、胃がんなど)では免疫チェックポイント阻害剤により治療成績が伸びてきているが、ガイドラインに従って使用するだけでは2-3割程度の患者さんにしか効果が期待できない。より効果的に使用するには多角的な知識と経験が必要で、保険診療内では治療が難しいことも少なくない。一つの方法として、局所の放射線治療と免疫治療を同時に行うことで全身のがんに対して免疫が作用するアブスコパル効果を利用した治療がある。それにより、より多くの患者さんに効果が期待でき、末期がんでも劇的な寛解をする症例も増えてきている。但し、標準治療を行なっている医師の中では、まだまだ認知度が低いため治療のタイミングを逸しないようにしなければならない。実際に標準治療の適応がなくなり緩和治療目的に局所の放射線治療を実施された患者さんが免疫療法を行い全身状態が劇的に改善する症例は当院でも経験している。

 

集学的治療

遺伝子変異が少なく免疫原性が低いがん(悪性神経膠腫、小細胞肺がん、乳がん、膵臓がんなど)では免疫チェックポイント阻害剤の感受性が乏しいため、従来から目立った治療成績の進歩がない。但し、乳がんはホルモン療法やハーセプチンなどの分子標的薬の出現によりトリプルネガティブ乳がんを除いては標準治療による成績は進歩してきている。また、トリプルネガティブ乳がんは免疫原性が比較的高いことがわかってきており、今後は免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待されるが、現時点での治療成績はまだまだ厳しい状況である。

この様な免疫原性が低いがんでは標準療法は抗がん剤治療が中心で、効果の割に副作用が強い治療となりやすいため、副作用を軽減するのに水素吸入点滴療法が有効である。例えば、プラチナ製剤が原因の重金属蓄積による末梢神障害や腎障害は保険診療では対応が難しいが、自費診療では重金属デトックスが可能となる。また、その様な免疫原性が低いがんでは生活習慣(食事、思考、環境など)の見直しが特に重要で、個々の状態に応じた治療戦略が必要と考える。軽い有酸素運動やヨガ・気功などは細胞レベルでの酸素取り込みを増やすことで、がんの原因となる低酸素を防ぐことができる。p53がん抑制遺伝子の異常発現が見られる消化管がん(食道がん、胃がん、大腸がん)において、ビタミンD3サプリ2000IU内服によって再発・死亡リスクが73%減少することを東京慈恵医大が2023年8月に発表している。さらにヨモギ成分のアルテスネイトや医療用大麻のCBDオイルなど、天然の抗がん作用のあるものや免疫力を上げるものもがあることも知っておくべきであろう。より効果的な治療法の選択には先述したRGCC社のCTC検査が有効である。その他にもがんの特徴である糖の嫌気性代謝(ワールブルグ効果)を阻害してミトコンドリアへの取り込みを増やし糖代謝を改善することは、PET検査で染まる糖取り込みが活発ながん細胞全般に効果が期待できる。

この様に複合的にアプローチすることでがんをコントロールすることが重要と考える。

記事監修

米澤 公器

瀬戸のまち統合治療院
よねざわ生活習慣病・脳クリニック院長

             

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